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2014年11月19日(水)マジカルミステリーツアーとキャバーンクラブ

窓の外は深夜まで大騒ぎ
11月19日水曜日。とにかく寒くて寒くてなんども目が覚めた。おまけに夜中まで部屋のすぐ外のお店から強烈なダンスミュージック(いやビートルズとかだったらまだいいんだけど、テクノですよテクノ)が容赦なく侵入してきて、僕は目が覚めるたびに様々な衣類を身に纏い、耳栓を装着し、天に祈り地獄の怨念を発射しぶるぶる震えながら朝を迎えたのだった。そういえば同室の男も頭から毛布を被ってゴホゴホ咳き込んでいる。

ちょっとリッチそうな店で朝食
目が覚めたらもう8時だった。といってもようやく明るくなったところだ。何か食べて暖まろうと歯を磨いて外に出る。このホステルは朝食別料金なのであるが、念のため昨晩のパブを覗いてみたけど朝食やってる雰囲気ではなかった。仕方がないので外に出る。ロンドンの宿は街中からちょっと離れた川沿いだったし朝ご飯はすべて宿の中で食べてたので、考えてみれば通勤時間の街歩きってのはこれがイギリス初体験だ。みんな思い思いに朝食を買って歩きながら食べたり、タブロイド紙片手に白い息を吐いて歩いていたりする。でもやっぱり異国な感じは少ないんだよなあ。アメリカとか中国とかだと「なに考えてるかさっぱり分からない」人影をたくさん見かけるんだけど、ここにいるとみんな僕とたいして変わらない考えを持っているようにしか見えないのだ。なんでかはわかんない。

English Breakfast
けっこう広めのお店The Welkinイングリッシュ・ブレックファーストを食べる。自分で座るテーブルを決め、そこの番号をカウンターに伝えてオーダーし、先払い。ちょっと仕事もしたかったのでコーヒーお代わり放題のオプションをつけといた。運ばれてきた朝食は暖かく、冷え切った身体を温めてくれた。紅茶も良いけどコーヒーはやっぱりがつんと目が覚める。無料のWi-Fiも飛んでいたのでiPadとiPhoneでサーバー関係の仕事やメールのやり取りを1時間ほど集中してやっつける。
ところで英国に限った話でもないのだろうけど、どんな小さな店でも料理を食べていると必ずといってよいほどスタッフが「どう?楽しんでる?全てオッケー?」って聞いてくるのはとても新鮮だしお互いにとって良い習慣だなあと思う。これだけのことで料理の質がぐんと良くなる気さえするし、いくつかの面倒からも解放される気がするのだ。店を出た後にネットに愚痴を書き散らすとかの。

さて今日は午後からバスツアーに乗る予定なのだけど午前中は何も予定がない。歩き回ろうとも思ったけどどうも昨夜の冷えのせいか身体が万全でない気もするのでここでゆっくりするか、歩くとしても屋内かなあ、なんて考えながらガイド本を読んでいると、マージーサイド海事博物館が面白そうと思ってそこへ行くことにした。

wikipediaより
昨日行ったビートルズストーリーのすぐそばの建物がその博物館で、上のフロアが「国際奴隷博物館」になっている。まずはこちらから入ってみることにした。
リヴァプールがアフリカとカリブ海諸国やアメリカ大陸の間で三角貿易を行っていたという事実だけは聞いたことがあった。でもその詳細な歴史については全く知らなかったしもっと言えば無関心でもあった。

国際奴隷博物館
しかしここで見た写真や動画、さまざまな展示物があからさまに語りかけてくるのは人類の考える「経済合理性」なんてのは実にあっけなく倫理を超越していく、ということだった。残念なことにそこには悪意すら見当たらなかった。昨日見た第一次世界大戦の記録を見ながらも感じたことだけど、人間の歴史は乾いた残酷さにまみれている。小さな希望があるとすれば、程度の問題はあるのかもしれないけど自国の闇の部分をこうしてきちんと提示し、できるだけ価値中立的に説明しておこうとするこういった博物館の存在である。ともすれば過去の行為は恥ずべきものとしてできるだけ矮小化しようと努力したり、当時の情勢では仕方なかったことだからと合理化を試みたり、あるいは他国も同様の行為を行ったのになぜ自国ばかり責められるのだといった開き直りに発展しがちな自分の国の状況に思いを馳せたりした。こうやってしっかりと現実をさらけ出した上で、訪れた人それぞれが心の中に引っかかりを作ってずっと暮らしていくという仕組みについて学ぶべきところは多い。

集合場所に遅刻しかけた
気づけばもう11時だった。11時半からはネットで予約していたMagical Mystery Tourに参加するのだ。なぜか集合場所を勘違いしていて、どうも人が集まらないなあ、バスも見当たらないなあと思いってiPadのチケットを見直したらなんと500mくらい離れた違う場所だったことが判明。乗り遅れてはいけないと息を切らして全力疾走、どうにか出発間際のバスに滑り込むことができた。乗客は大型バスの三分の一くらい。実際のテレビ映画と違ってバスは新しい箱形だけど、しっかり当時のペイントがしつらえてある。主催はキャバーンクラブなのだ。

バスはリヴァプールの街を巡る
バスガイド氏は60がらみの男性、JohnやRingoのようなリヴァプール訛りの早口英語でガンガン客を笑わせる。最初に皆にどこの国から来たのかって答えさせると案外イギリス国内の客が多かったけどアメリカやブラジルから来た客もいたし、僕の他に日本人カップルも一組いた。
君らはいったいどこのフットボール(俺たちは決してサッカーなどとは呼ばないんだよね、とかいいつつ)チームのファンなのかい?と訊ね、客が正直に答えるたびドライバーに「おい、××だってよ、有り得ないよな、次の停留所で一人降りるからよろしく」的な細かいギャグで笑いを取っていた(かなり聞き取れてないので超訳)。

センチメンタルジャーニーのジャケット
まず向かったのはリンゴ・スターの生まれた家の近辺で、彼のソロアルバム「Sentimental Journey」のジャケットになった近所のパブ、それから彼が寄附してつくった子どもたちの家などを、バスを止めることなく紹介していく。ダウンタウンからは歩いて行けないくらいの距離で、なるほど確かにちょっと寂しい感じの地区だった。バスの車内でリンゴの歌う曲が流されるがよく見たらガイド氏のiPhoneからスピーカーに出力してるのだった。91年からスタートしたというこのツアーだけどちょっとずつ便利になってるのだろうな。

ジョージの生家
次に向かったのはジョージ・ハリスンの生家。ここではバスを止め外に降りて説明を聞きながら写真を撮ったりした。家と言っても長屋の中の1軒って感じだ。たまたまその前にクリーニング屋のバンが停まっており、中でドライバーがサボっていた。僕らが近寄って写真を撮ったりするものだから、彼は目を覚ましてガイド氏に「おいおい、なんなの?ここって有名なのか?」とか訊ね、「ビートルズのジョージが生まれた家なんだよ!」って言われたらびっくりして車を降り、スマホで写真を撮り始めてた。案外地元でも知られていないんだ。

ジョンが暮らした家
その後もジョン・レノンがミミおばさんと暮らした家、ブライアン・エプスタインの生家、ビートルズの前身クオリーメンが初めて演奏した教会なんかが紹介され、窓から眺めたり降りて外から眺めたりすることができた。ブラジルの若いカップルは終始自撮り棒を振り回しスマホでセルフィー写真を撮りまくってたのが面白かった。


ストロベリーフィールズ前
やっぱりハイライトはストロベリーフィールズペニーレインだ。デビュー前はリヴァプールのスターだった彼らだがブレイクした後はロンドンに活動拠点を移し、多くの名曲もそこで生まれたわけだけど、すべてのコンサート活動をやめレコーディング・アーチストとして再出発した67年くらいからリヴァプールに題材を求めた楽曲を作ったのだった。ジョンが作ったのがストロベリーフィールズ・フォーエバーでポールのそれがペニーレイン、1967年当時に両A面シングルを飾ってヒットした。ストロベリーフィールズの赤い門の前にバスは横付けされ、僕らは代わる代わる交互に写真を撮ってもらったり撮ってあげたりした。

ペニーレイン
ちょっとした森の中の曲がりくねった道をバスは進む。このあたりでは説明することも尽きたのかガイド氏はiPhoneでおそらくは彼のお気に入りのビートルズナンバーを流して間を持たせている。ちょっとはしゃぎ疲れた僕ら乗客は窓の外に流れる緑の光景を静かに眺めている。突然だけど僕は得もいえぬ快感に襲われた。なんだろう、柄にもなくちょっと感激していたのかもしれない。

数日前に夜中に目が覚めて眠れなかったとき、YouTubeでMagical Mystery Tourの映画を全編観たのだけど、なんとも味のある映像だった。中学の頃にも映画館でみたんだけどその後MTV全盛の時代を経てあらためて観るとまったく違った風に見えるのだから不思議だ。そんなことを考えながらもバスはずんずん走っていく。

Paulの生家
ポール・マッカートニーが生まれた家に寄る。けっして裕福ではないけど、他の三人に比べるとちょっとだけ余裕のある感じの住宅街だった。でもまあご本人はまだ元気でピンピンして世界中を飛び回っているわけです。ここでふと思い出したのだが、ちょうど一年前の今ごろは福岡で開催されたポールマッカートニーのライブに夫婦して出かけていたのだった。2013年11月15日のことだ(今年の大阪コンサートにも行くつもりでチケットまで取ったのだけどSir Paulの体調不良で中止になって行けなかった)。

楽しいツアーでした
2時間にわたるミステリーツアーもそろそろ終了だ。ガイド氏の名調子でこの後夕方からはキャヴァーンクラブでポールそっくりさんとジョンそっくりさんの演奏があります、みなさんぜひお越しください、なんて案内が繰り返された。そうか同じ経営母体なんだ。今夜出かけてみよう。バスはマシューストリートの近くで停車し、そこで解散となる。乗客らはすっかり童心に戻った笑顔で街に散らばっていった。

パブRubber Soulで
そういえばお腹空いてるし、何か食べようかなとマシューストリートのパブ「Rubber Soul」に寄ってビールとフィッシュ・アンド・チップスを頼む。初日の夜に食べて以来だけど、こっちの方がちょっと美味しかったかな。ビールはフランス国籍の1664、これも気に入った。どこの国にいても昼ビールは格別である。このまま夜まで飲んだくれてもいいんだろうけど、明るいうちに歩いておきたい気もしたので、お代わりをせずに外へ出る。前会計だから店を出るのもお気楽だ。アメリカみたいに自分がオーダーした店員を探してテーブルに呼んだりしなくて良いしチップも不要だし。

Radio City Tower
外に出ると駅の近くにタワーが見える。そういえばツアーガイド氏がバスの中で「あのタワーは有料だが展望台に上るとタージマハールが見えるんだぜ。まあ市内のしょっぱいインド料理屋なんだけどな」とか細かいギャグを飛ばしてた(気がする)ので確かめに行ってみようと思い立つ。タワーのオーナーは地元FM局らしい。チケットにはガイド代も入ってるみたいで数名の客と(その飼い犬と)若くて小太りなガイド兄貴とエレベーターに乗り込む。スカイツリーみたいに派手ではないけどそれなりの非日常感を伴いながら空中に浮遊していく(こちとら酔ってます)。1966年に完成したというこのタワー、僕とほぼ同い年だ。

タージマハールは確認できず
展望台に降りると、夕暮れのリヴァプール市街を一望することができた。昨日からあちこち歩いててなんとなく概要も掴めてるので、あああれが博物館でこの辺が繁華街かーなんてほろ酔い気分で楽しめる。犬連れのおばちゃんはオーストラリアに住んでる夫婦みたいで、何かのきっかけで「円安はたまらんですわ」みたいな話をしたら「私たちは憧れの日本に行けるチャンスって思ってて今からとっても楽しみにしてるのよ」なんて言ってくれたので、なるほどそうだよなあ、と頷いた。円安+デフレ+オモテナシですからね我が国は。ぜひお犬様連れでお越しください。展望台の内側はFMラジオ局のスタジオでおじさんがマイクに向かって何だか喋り続けている(当然聞こえない)。

下界に降りるとまだ明るい。タワーから見えた巨大な大聖堂まで歩いてみることにする。リヴァプール大聖堂だ。完成は1978年と意外と新しいみたいだけど、それにしても巨大だ。イギリス国教会でも最大規模らしい。中に入るととても荘厳な空間で、まだほろ酔いの僕としては申し訳ない気分になる。ステンドグラスを次第に弱まってきた夕陽が透かしている。こないだ読んだイギリス歴史の本に、イギリス国教会は王が妻と離婚したいがためにそれを禁じていたローマカトリックから分派したみたいなことが書いてあったけど、考えたらそれも荘厳な物語であります。

夕暮れの住宅街を歩く
帰り道はiPhoneに仕込んだ「Unofficial Beatles' Liverpool」ってアプリ(こないだロンドンで使った道案内アプリのリヴァプール版)で少し寄り道することにした。ポールとジョージが通ったというリヴァプール・インスティテュートの前を通ってみる。大がかりな工事中で立派な建物は隠れてしまってたけど、そこからダウンタウンへと下る夕暮れの住宅街を歩きながら、若い彼らもこうして通ってたんだろうなあなんて。街歩き中に音楽を聴くことはほとんどないんだけど、思い立ってBeatlesの音源をiPhoneでランダムに聴きながらリヴァプールの街を歩くのはとても良い気分だった。明日はiPhoneとイヤフォンだけでこの街を歩くだけでもいいかもなって思ったくらい。

アコギ弾き語りだった
いったんドミトリーに戻り、ちょっと身体を休める。同室の彼はどこかへ出かけている。今朝まであんなに寒かった部屋がポカポカになっている。やっと修理してくれたのだろうか。というかサウナみたいに暑いんだが。18時くらいまで写真の整理をしたり、次にどの街へ行こうかって調べてみたり。まだお腹はすかないけどそろそろ出かけることにしよう。行き先はさきほどのバスで紹介していたキャヴァーンクラブに決めている。そろそろJohnそっくりさんがステージに上がる頃かなと。

ステージ横から
歩いてすぐのCavern Clubの入口から階段をぐるぐる降りると昨日博物館で見たとおりのライブハウスが再現されていた。ちょうどパフォーマンスが始まるところだった。カウンターでビールを1杯貰い、満員の立ち見客たちをかき分けてステージサイドに近づくと確かに似ている。声はもちろんだけど、がに股でギターを高めに抱えて弾くところなんてそっくりだ。よくよく見ると顔はRingoにもGeorgeにも見えるんだけど。彼はフォークギター1本の弾き語りスタイル。でも世界中から集まってるだろう客たちは誰もが知っている曲に大興奮てかほとんど大合唱である。当然のことだろうけど老人が多い。でっぷり太ったお婆ちゃんが我を忘れてフロアをくるくる踊っている。お爺さんたちがぎらつく視線でそれを眺めている。考えてみればビートルズ全盛期に黄色い声を発しバタバタと失神していた少女たちの最新バージョンがここにいるわけで、いやはや近現代史というのは面白い。

ライブは続く
お店にはチャージがあるわけでもなく、ただ喉が渇いたら受付でビールを買えばよい。写真も動画もいくらでも撮ってくださって感じ。酔っ払いがときおり派手にグラスを落とすが冷静な店員がさささと片づけにくる。ビートルズナンバーを歌い尽くしたジョン君(名前は違ったけど忘れた)の次はまたギター弾き語りの男がステージに立つ。この勢いで深夜まで宴は続いていくのだろう。彼はビートルズに混じってOasisの曲も歌ったりするのだがそれも客は全員合唱できるんだからブリティッシュロックもなかなか根深い。

ずっとこのまま過ごしてるのも楽しそうだけど、ビール2杯で酔いが回ってきたのと23時近くなってくると猛烈な眠気に襲われてきたので部屋に戻ることにする。
今日も楽しい一日であった。

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