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2014年11月23日(日)雨のグリニッジ、パディントンのパブでF1最終戦、ヒースロー近くのホテルで最後の夜を過ごす

New Cross Innの外観
2014年11月23日日曜日。朝からずっとひどい雨だ。それに昨夜雨のなかを歩き回ったのが良くなかったのか夜中になんども自分の咳で目を覚ましてしまった。木製の二段ベッドは僕が咳をしたり寝返りを打つたびにぐらんぐらん揺れるのである。明るくなって荷物をまとめていると上のベッドの兄ちゃんと目が合ったので「昨晩は咳ばっかりしてて悪かった、よく眠れなかったんじゃないかな」と声を掛けたら「いやいや全然。それよりも今日の雨は湿気が多いから喉にはきっと良いはずだ、良かったね」なんて返された。なんだかずっとイヤフォンしたままスマホばっかみてる変な男だと思っていたのに、案外いいヤツだったのでちょっと驚いた。

朝から重たい雨だった。
ここの朝食も徹底的なセルフサービス。同室だったカップルもトーストにバターを塗ったくってむしゃむしゃ食べていた。ドミトリーで同室になると誰とでも仲良くなってあれこれ世界中の旅話が聞けるって書いてる本もあったけど少なくとも今回のイギリスにおいてそんなことはなかった。みんな黙々と寝たり着替えたりシャワー浴びたりしてて、同室だから特にどうって感じでもない。もちろんおはよう、とかチワーとかは言いあうけど、そんなもんだ。僕くらいの年齢の人間や家族連れもたくさんいたし、男女のカップルで上下のベッドに寝泊まりしてるケースも多々あった。安い宿に泊まって思いっきり旅を楽しむってスタイルが定着しているんだろう。西洋の方がプライバシーを重視するとかって良く言われるけど、僕ら日本人の考えるプライバシーとはちょっと違う気がする。排他的でも密着的でもない、お互いにちょうど良いと感じる人間同士の距離感を保つ技術みたいなものがあるんじゃないかと思う。日本人がその技術を持たないわけがないんだけど、これまであまり上手く使ってこなかったんだなあ、なんて。

荷物室にバックパックを預けチェックアウトして外に出る。上空からはずっと重たい雨が降っている。今日は日本から持ってきた折りたたみ傘持参でここからバスに乗り、グリニッジ天文台に行く予定。経度0度線が通ってるところです。
天文台まで遠い遠い
近くの停留所から赤い2階建てバスに乗り、グリニッジ近くのバス停で降りる。ここから天文台までが歩くんだけどこれがまた遠かった。冷たい雨がずっと降ってるし、水ハケが良くないのか舗道には水たまりがたくさんで僕の靴はあっという間にびしょ濡れだ。そして使い捨てカイロまで投入してほぼ自分なりに完全装備なのにそれでもブルブル震えている僕の横を「もしかしていま春ですか」って格好した男女が優雅に犬の散歩してたりする光景がここでも繰り返されるけど、もはや驚いたりはしない。

これほんとに子午線か
グリニッジ天文台に到着、手前にある博物館にいったん入ったけどあまり時間もなかったので今回はパス。その北側にある子午線を表した壁まで少し歩いていくと、団体客らが説明をガイドらしき男から受けてるところだった。その後お互いに記念写真を撮り合いはじめたので僕もしれっと紛れ込んで写真を撮ってもらう。子午線を挟んで立ち、地球の東半球と西半球を跨がるポーズがここでは人気なのだとか。ところでこのブログを書きながら画像検索したのだが僕が写真撮ってもらったあたりとなーんか景色が違う気がしてきた。もっと豪勢な感じのところで撮られた写真ばかりがヒットするのだけど・・・もしやみんなして適当なガイド氏に一杯食わされてたってことはなかろうか・・・でも今さらそんなこと考えても切ないのでそんなことは忘れるに限る。

"Subway"
帰りもまた同じ道をずぶ濡れでバス停へ。ホステルの前でいったん下車し、荷物を背負ってまたバスで乗り換えのために地下鉄駅へ。SUBWAYとかかれた地下への入口が見えたのでお、地下鉄乗り換えだ濡れなくてラッキーだと入ってみたものの、いっこうに地下鉄の改札まで辿りつけないのである。そこでふと「イギリスでSUBWAYといえば地下道のことで地下鉄はUndergroundまたはTubeである」と書いてあったガイドブックの一節が脳内に蘇る。たまたまかもしれないけどそのまま地下鉄の改札に繋がっていたので事なきを得る。

The Mad Bishop & Breakfast
地下鉄を降りるとそこは懐かしのパディントン駅であった。といってもまだ10日ほど前のことなんだけど。ずいぶんと時間が経ったような気がする。これからこの駅の中にあるパブで今年のF1最終戦であるアブダビGrand Prix生中継を見ながら一人ランチしようという計画である。事前の下調べでF1中継されることは確認済み。久々のイギリス人チャンピオンが決定するかもしれない瞬間にイギリスにいるのだもの、そりゃ見たくもなるでしょうってことで。

Spicy Root Veg & Lentil Curry
The Mad Bishop & Breakfastというお目当てのパブはパディントン駅舎の中にある。だからちょっと値段高めみたいだけどサービスはとてもしっかりしてて長居するには最適だ。店員お薦めのエールを1杯買ってテレビ画面に近い席を確保。まだスタート前だから音声はミュートされてるけど字幕が出るので僕としてはこっちの方が判りやすい。お腹もすいたのでちょっと贅沢にレンズ豆のカレー(1300円くらい)と2杯目のビールを手にスタート時間を待つ。直前にミュートされていたテレビ音声がパブに鳴り始め、代わりに字幕は消えてしまった。僕としてはちょっと気を抜けない展開だけど、まあそんな真剣に見るってわけでもないのでたまにしか体験できない昼間のF1観戦の雰囲気だけでもとリラックス。

壁のテレビでF1みながら昼呑み
なかなか面白いレースだったけど最終戦でチャンピオンになったのは下馬評通りイギリス出身ルイス・ハミルトン。ゴール後マーシャルから受け取ったユニオンジャックを手に凱旋走行したときはパブの中でも男たちの歓声が上がった。でもその後の表彰台でイギリス国家が流れた時はちっとも盛り上がることなく、男たちはまたビールに戻っていたようだ。やはりフットボールとは全然違うんだなあ、F1人気。もっとマニアックなパブを見つけてたら騒がしく盛り上がってたのかもしれないけど。

最後の宿に到着だ
でも僕はここパディントンからさらに移動しなくてはならないのだ。明日のフライトに備えて今宵は空港のそばのホテルに泊まる予定なのです。来たときと同じヒースロー・コネクトに乗ってHayes & Harlington駅で降りバスに乗り換えてヒースロー国際空港の近くに建つホテルへと向かう。バス停からホテルまでは高架下を歩いたり寂しげな住宅街を抜けたりとけっこうな距離があり、ちょうど日が暮れる時間だったからまだ明るかったけどこれ夜中だったらけっこう心細かったかもなあと思う。タクシーかレンタカーで来ることが前提のホテルらしい。でもこんな道、こういうことなければ一生通らないよって思ってそれもまた貧乏旅行の醍醐味だと寒さに身を震わせながら自分を慰める。世界中あちこちにあるチェーンの「Comfort Hotel Heathrow」にハァハァ言いながら到着。

今までとは違うぞ風景が
いままで渡り歩いたホステルなどとは別世界みたいに立派なフロントでチェックイン。予約していた宿泊料に15ポンド足せばホテル内レストランでのお得なディナーをつけますがいかがでしょう、と案内され、このホテル周辺の環境を考えれば館内で食べる以外ないと思い、それいいですねつけといてください、なんて今までの貧乏旅行はなんだったんだ的な気の緩み方である。まあ最後の宿なんだし。そもそも今夜は今回の旅では初日以来のシングルルームを予約しているのであって、ドミトリー3泊分くらいになる贅沢仕様(といってもディナー込みで1万円)で旅の疲れを癒しておこう計画なのである。

久々のシングルルームでバスタブを満喫
10日ぶりにバスタブにお湯を張り、ゆっくり風呂に入る。喉は痛いし咳は相変わらずだけどバスタブパワーで一気呵成の快癒を狙って長風呂を決め込む。風呂上がりには壁掛けテレビで70年代のお笑い番組とかニュースを眺めてリラックスだ。しかしまてよ、そうだ明日はレンタカー借りるんだった、下調べしておかねば、とiPadを取り出す。明日のフライトは夕方遅い時間だからそれまで空港でレンタカーを借り、近郊をドライブしてみる計画を立てていたのだった。ネット予約してたデータを元に、明日何時に空港のどこにいけば良いかとかチェックしておきましょうと。

世界中から寄せられる悪評の数々
ところが。まず僕が適当に探した格安レンタカー屋のオフィスは空港にはなかった。僕の泊まっているこのホテルから数キロ離れた、つまり同じく郊外のホテルにオフィスがあってそこからしかクルマを借りられないというではないか。送迎などはないようだし、バスに乗っていくのもいったん空港に行かねばならずけっこう大変だ。タクシーで行くんだったら格安の意味なくなるじゃん。
そして次にたまたまGoogleでその会社を検索したらまあ出るわ出るわ出てくるわ悪評の数々・・・身に覚えのないキズに文句つけられ高額の請求書が帰国後回ってきて紛争中とか絶対に利用するなとかそんなコメントがずらりと並んでいるのである。さすがにちょっと気後れしてきた。さっさとキャンセルして有名なレンタカー屋さんに乗り換えねばと予約サイトでなんども変更手続きするのだが、作りが悪いのか一向に実行できないし、思い切って電話しても時間外ってアナウンス。だんだん嫌になってきた。そもそも体調も思いっきりよろしくないわけでこんな状態でドライブってちょっと危険ではなかろうか・・・いろいろ考えてキャンセルボタンをタップするに至る。全額返金されませんけどよろしいですか?と訊かれたけどもういいやって感じで9千円ほどを無駄にしてしまった。ネット予約は安いけどこういうこともあります。ぐゃじぃ。

これぞまさに肉形石
さて気を取りなおしてディナーだ。オシャレなレストランに案内され、この中から2つ選んでくださいねってメニューから適当にポークなんとかとプディングを華麗にチョイス。もちろんビールもお薦めを持ってきてねとフィリピン系ちょっと入ってる感じのウェイトレスさんにオーダーであります。駅の通路に座ってサンドイッチ食いちぎってた人間も場所が変わればそれなりに行動できるのですよあっはっは、と余裕カマしていたのだが出てきた皿を見て思わず目を剥いた。絶賛体力低下中の僕にはあまりに肉肉しいメインディッシュであった。何かに似てるよなあ、と思い出したのは去年の暮れに妻と出かけた台北の故宮博物院に展示してあった肉形石、であります。

最終兵器プディング
西洋肉ごときに負けてたまるか、とナイフとフォークついでにビアグラスを両手に奮闘の結果どうにか完食に成功。しかしそれもつかの間、怯んだ隙にサーブされたのはもう一つの皿、プディングであった。肉形石3個分に相当しそうな物量の甘い黒パンの化け物、どすんとしたアイスクリーム、それにバニラ塊という三種の神器による密集態勢攻撃に悔しくも途中棄権。隣のテーブルに座っている英国人らしき一人客の男性を観察してみたところ、似たような物量での戦闘を繰り広げてたように見えるが、しかし軽々とそれらを胃腸に収めきったようで余裕のある表情でゲップを返してきた。贅沢な旅には絶対的な体力が必要なのだとつくづく思い知らされた瞬間であった。

いきなり旅のパターンを変えると身体がついてこないだなんて、なんだか年寄りくさい話でいやなんだけど考えたらもう20代とかでないわけで、てか来年50だ、こんな行き当たりばったりの旅行ももう何度もできないんだろうなあと思うと今回残されている僅かな旅の時間を楽しまねばって気になってきた。まずはせっかくのふかふかベッドだ、ぐっすり寝よう。最後の夜なのだ。

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