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2017年の1年間に読んだ55冊の記録

メディアマーカーのHTML出力機能で作りました。読了した逆順(新しい順)にずらっと並べてるだけです。あんまり誤字とかチェックしてないです。

期間 : 2017年
読了数 : 54 冊
バンドやめようぜ! ──あるイギリス人のディープな現代日本ポップ・ロック界探検記 (ele-king books)
イアン・F・マーティン / Pヴァイン (2017-11-25)
amazonで見つけて何か面白そうだったので少し高かったけど買ってみた。十数年前から日本で生活しているイギリス人による日本の音楽の歴史と批評ってことで、いかにもイギリス人っぽいシニカルででも少しだけ自虐的なトーンの言葉の山がとても快適だった。いいよねこのこじらせ感。
僕自身は大学生まではほとんど音楽だけといって良い生活だったのだけど、仕事に就いてからの20年間は全くといってよいほど離れてしまった。つまり1987年から2007年くらいまでの音楽動向についてはすっぽり抜け落ちてて、売れてるミュージシャンもそうでない音楽家についてほとんど知らない状態なのです。だから羅列されるバンド名やミュージシャンについてはナンバーガールくらいしか分からないけどそのまま暗号文のように読んでいくだけでも何かが伝わってきた気がするし、きっとそのうちに暗号にしか見えなかった文字列もそうでなく意味ある言葉として読めるようになるのかもねといった予感を持たせられたのでした。なんとなく。
ここ数年はいくつかのバンドに所属したり自作のバンドを始めたりとすっかり20代の頃と同じような音楽人生に戻っているんだけど、本書を読むにつれ「東京じゃなくて熊本で良かったかもしれん」と確信めいた気分が深まってきた。特に地震後の熊本音楽シーンはとにかくジャンルも年代も関係なくごった煮で進んでる気がしているので、ここに描かれているタコツボ化し部族闘争のような東京の音楽シーンなんて想像もつかないのだ。
何はともあれとても刺激的で今後も著者の見方や言葉の選び方が僕の脳内に居残りしてしまうような、そんな読書となった。
善と悪の経済学―ギルガメシュ叙事詩、アニマルスピリット、ウォール街占拠
トーマス・セドラチェク / 東洋経済新報社 (2015-05-29)
「欲望の経済学を」読了後すぐにダウンロードして読み始めたものの神話の章に興奮しつつも細切れな時間に読める内容じゃないなあとつい中断気味になってしまい読み終えたのは年末になってしまった。だけどちょっとした空き時間に再開するとそこからドライブがかかりちょっとやそっとでは離れられなくなってしまう(だからいつもトイレ時間が異様に長くなってしまう)。
100カ所以上にハイライトしていたのでことあるごとにKindleを読み返すことでこれからもずっと刺激を受けていきそうな気がする。アダム・スミスへの誤解や成長神話への疑問や近代経済学と数学との複雑な関係性はもとより、経済学と実際の経済との乖離について、そして何よりも感情と理性とは同根なのではないかという筆者の提言についてほとんど初めて知ること、考えることばかりでそこそこ歳を取ってしまい何かが分かった気になりつつある僕にはとても衝撃的であった。
無知の知は大切だと思いながらも、こういった若い知性、しかも僕らが空気のようにしか感じていない資本主義社会について冷めた見方のできる旧東側社会からの意見に触れるともうあしもとをぐらつかせながら、わかったよじゃあ俺もうちょっと真面目に考えてみるから、あと何冊か読ませてくれよ、と熱くなってしまうしかないのだ。
バンドマンの為のガレバン宅録
加藤 一友 / Easy Read Publishing (2015-12-18)
何か得るものは無いかと見つけて買ってみたけど、ほとんど全て使っている機能ばかりでした。
すべての新聞は「偏って」いる  ホンネと数字のメディア論
荻上チキ / 扶桑社 (2017-12-09)
著者のTwitterで知りAmazonで予約。長らく自宅では地元紙しか取ってないけど、出張先ではホテルの朝食時に全国紙や地方紙につとめて目を通すようにしている。すると確かに新聞社によってかなりのバイアスが掛かっているものだ、とは気づいかされるものだけど、本書においてここまで可視化されるとなるほどたしかにと納得させられるでした。

たしか今世紀に入ったくらいだったと思うけど2chなどの掲示板で急速な右傾化が始まり、同時に朝日毎日バッシングがスタートしたことをよく憶えている。当時はぼくもけっこう真に受けてて、そうなのかネットは様々なものを炙り出すものだなあと得意気になっていたものだ。
だが数年経つとどうやらそれもかなり怪しげなバイアスに過ぎないことに気がつかざるを得ない事態となってくる。Twitterなどが登場し、双方の意見が衝突する場面を多く目にするようになったからだ。左右どちらが一方的に間違っているとかそういうことではなく「世の中には誰かの書いたニュースを心の底から真に受けてるヤツがこんなにいたのか」という驚きに打ちのめされるのだ。そんなの左右どちらも思い切り話盛って嘘ついてるだけじゃないか、と思うんだけど面と向かって指摘するとこれまたいろいろ面倒くさいしなあ。

ネットに散らばる有象無象のテキストに較べると新聞の信頼性はまだまだ高いと思う。だけどそれは一様なレベルではなく、発行元や筆者によってさまざまな程度が入り乱れているわけで、記者が真面目でニュートラルであっても大人の事情ってのもあるかもしれない。

いずれにせよ「頭から信じない」「頭から否定しない」「真に受けない」という節度を忘れることなく、つまり頭を熱くさせないままにできるだけ多様なテキストに触れていくより他はないと思う。最悪なのは「マスゴミ」などと蔑視し、常にその逆張りを信じ込んでしまう態度だと思う。
SNSは権力に忠実なバカだらけ (コア新書)
ロマン優光 / コアマガジン (2017-12-02)
Amazonに勧められてなんとなく購入、1日で読んだ。前半については同意するところも多く、なるほど面白いこと書くよねと感心したりしてたんだけど読み進めるにつれタイトルから徐々に離れ音楽業界ネタに進んでいくので、いやそれはそれで興味深いんだけど新書という商品としてはどうなんでしょうと思いながら読了したのでした。
トラクターの世界史 - 人類の歴史を変えた「鉄の馬」たち (中公新書)
藤原 辰史 / 中央公論新社 (2017-09-20)
TBSラジオSession22に著者が出ていたのを聴いてその場で注文、とにかく面白くてこれは今年最高の新書かもなあとしばらく一人悦に入り、あちこち持ち歩いては知り合いに勧めていた本。おかげでこれまで何とも思わなかった散歩中の風景でも思わずトラクターのメーカーを確認したりこれが三点リンクかーなんてしばし立ち止まってみたり。

人間と優れた道具との関係性はそれがどんな機械であろうとも、必ず偏愛寵愛と副作用あるいは反逆、事故、そして疎外、ついには戦争というテーマに繋がってしまう。でもそれはキューブリックの映画で類人猿が放り投げた動物の骨と同じくだからこそ僕らは人類としていまここにいるんだろうなあとも。必要なことは過去の歴史や事例について興味を持つこととそこからの発見や知見をどう未来へフィードバックしていけるのか、という人類のもう一つの側面に希望を繋ぐことかもしれない。
〈映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀 (新潮文庫)
町山 智浩 / 新潮社 (2017-10-28)
ブレードランナーは学生時代に同じバンドの映画好きが朝から晩までうわごとのように語っていたのを憶えているくらいで、テレビ放映の際にちらっと見た程度だったが、続編が封切られると聞いてHuluで見た瞬間にドはまりしていくつかのバージョンを繰り返し見る事態になってしまった。
そんなこともあって文庫化された本書を手に取ったのだけどとにかくびっくりする高レベルの評論にたじろぎつつにやりとしたり目を覚ましてみたり慌ててHuluを見直してみたりと遅れてきたマニアみたいに没入するのでした。ビデオドロームも前述の映画マニアオカモトが当時ハマっていたのを思い出してもう一度見たらなるほどこんな映画だったっけと仰天。ターミネーター、グレムリン、ロボコップも印象的な映画だったから機会を見つけて本書片手に見てみようかな。未来世紀ブラジルはたしか借りてきたけど途中で時間切れ返却してしまったのでまた借りてこよう。


ぼくらの地球規模イノベーション戦略―――IT分野・日本人特許資産規模№1社長のこれまでと次の挑戦
菅谷 俊二 / ダイヤモンド社 (2015-08-28)
読了日:2017年10月25日
著者が所属している業界団体の講師に招かれるということで本書が送られてきた。東京で開催された講演当日に飛行機の中で読んだ。大学在学中にITベンチャーを起業した著者が、その後さまざまなオヤジたち仲間たちに助けられながらユニークなIT企業としてIoTやAIを武器に世界にイノベーションを・・・という自伝。
著者は僕より10歳年下ということでつまり起業した彼の学生時代に僕は30歳くらいだったわけで、そういえば親の会社に入社した僕はITを武器に仕事のやり方を新しくしようと七転八倒していた頃だった。その後40歳になった2005年には従来の業務を整理し現在のスモールIT会社一本で生活するようになったわけだが、本書に描かれる当時のIT事情はひとつひとつ懐かしいような恥ずかしいようなそんな感覚で読んだのでした。

講演会では一つだけ質問させてもらった。たとえばGoogleは「Don't be evil」という社是を持つが貴社はどうだろうか?たとえば独占企業や軍関係から依頼が来てもそれは受けるのか、受けるか受けないか誰が判断しているのか?ということだ。明確な答えは聞けなかった気がするけど、医療に携わる僕にとっては大切な論点なのだからぜひいつか機会があれば聞かせてもらいたいと思っている。
生命保険のカラクリ
岩瀬大輔 / 文藝春秋 (2009-10-20)
日替わりセールで。不得意分野を少しでも解消しようかなと思って読んでみた。大雨の続くキャンプ先のテントの中で読了。当事者である生命保険会社の若い社長が書いているのでもちろんバイアスはかかっているのだと思うけれど、非常に面白く読めた。何だかんだいわれながらもまだ各種社会保険制度の充実している日本で民間保険を売ろうとするとやはり必要以上に危機を煽らないといかんのか、と残念な気になったけど考えてみればそれはどの業種もほとんど同じなわけで。僕のいる業界だってほとんどそうかもしれない。

彼の書いた「営業プロセスのすべてがネットに置き換わる必要はない。私たちが行っているのは、ネットを使える部分では効率化し、本当に人間が介在する必要があるプロセス(保険相談や商品に関する質問など)や、必要がある場合のみ「対面系」を用いるビジネスモデルである。」という言葉は僕があちこちで主張している言葉と寸分違わぬものだったのでとても驚き、そして勇気を得ることができた。
大村憲司のギターが聴こえる (レア・トラックス3曲収録のCD付) (ギター・マガジン)
ギター・マガジン編集部 / リットーミュージック (2017-02-01)
高校時代テレビでYMOのサポートをしていたライブ映像を見て以来、大村憲司のストラトから伝わってくる何かにずっと魅了され続けているので本書を見つけた瞬間値段も見ずにオーダーしてしまった。若くして亡くなってしまったけど、生きていたら今ごろ日本を代表するギタリストとして・・・いやそんな気負いなんてひとつも感じさせずに地方のライブハウスとLAやロンドンのスタジオとあちこちのんびり行き来しながら相変わらず熱くて渋いプレイをしてたんじゃないかなあ、と思うのでした。僕にはとてもマネできないテクニックの持ち主だけど何かを伝えようとする姿勢にだけは食らいついていこうと思った。9月に作った僕のバンド、The SIde Effectsも彼の「春がいっぱい」にかなり根ざした音楽なのです(目指してるだけだけど
表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬
若林 正恭 / KADOKAWA (2017-07-14)
キューバに一人旅に行くという妻に買ってあげたのだけど、満面の笑みで帰ってきた妻の後追いで僕も読んでみた。芸能人にありがちな(あるいは芸能人が書いたことになっている本にありがちな)誇大な自意識過剰と底流に見え隠れする何かのプロモーションといったいやらしさのない、イノセンスな文章と写真からは確かにキューバの素晴らしさとか現代日本あるいは先進国のヤバさが伝わってくる。だけど本当に面白いことは、言葉も常識も通じない国に出かけた、言葉を生業にする芸人の頭の中に溢れかえる日本語の渦をとにかく1冊に封じ込めてそのまま出版できたことだと思う。それは何度か海外一人旅をしたことのある僕にとってもちょっとわかる感覚なんだけど、一般人はそれをそのまま出版したりできないわけで、その意味で生々しいいっときの感覚をそのままパッケージしたブツを偶然拾ってしまったような、面白い読書の楽しみに気づいた感覚だったりするのです。
歯科女探偵 (実業之日本社文庫)
七尾 与史 / 実業之日本社 (2017-08-05)
出張先姫路駅の本屋さんで見かけて買い求め、出張中の列車で読了。ケータイ小説みたいなもんだろうとタカをくくってたけど案外楽しめた。さすがに現役だけあって歯科医院回りの描写は正確だし、歯科器材ディーラーが登場する場面では思わず手を叩いて喜んでしまった。いろんな本読んでるけどこんなの初めて!という感じで。
バッタを倒しにアフリカへ (光文社新書)
前野 ウルド 浩太郎 / 光文社 (2017-05-20)
Session22で著者の出演を聞いて。とにかく面白く、新世代の高野秀行が登場したなあと感慨深く読み進めた。若い日本人は快適な国内に閉じこもって海外には行きたがらない、みたいな話をよく耳にするけどとんでもない、アフリカの砂漠を横断するバッタのごとく(群れは作らないみたいだけど)地球狭しと飛躍してるんだなあと感心したりもした。
アフリカ大陸には一度も行ったことがないけど、いつか行ってみたいなあとも。
個人的に面白かったのはババ所長に「電線に止まっている5羽の鳥を銃1丁、3発の銃弾で何羽仕留められるか?」と訊かれるエピソード。「いいかコータロー、覚えておけ、これが自然だ。自然は単なる数学じゃ説明できないのだよ。」ってとても示唆に富んでて良い話だなと思った。
欲望の資本主義―ルールが変わる時
丸山 俊一 , NHK「欲望の資本主義」制作班 / 東洋経済新報社 (2017-03-24)
日替わりセールで買ってみたのだけど、Amazonに狙い撃ちされたのではないかと思えるくらいずっとモヤモヤしていたことへのヒント満載の本だった。スティグリッツ、セドラチェク、スタンフォードいずれの経済学者の本を読んだことがないのだけど、これから一冊ずつでも良いので読んでいこうと心に決めた(本書読了後にセドラチェクの本をすぐにダウンロード購入した)。
僕がずっとモヤモヤしているのは「本当に経済成長は人類に必須なのか」「AIに労働を奪われることは悲劇なのか」といったここ10年ほど話題になっている危機あるいは煽られている危機についてだ。本書を読むにつれ、やはり経済成長はさまざまな弊害を隠す特効薬かもしれないが依存性が高く寿命を縮める可能性が高いドラッグみたいなものだということ、AIについて考える前にまずヒトと労働について僕らが当たり前だと感じていることを一度見直す必要がありそうだということを考えさせられた。
この短い本で何かが判ることは無いと思うけど、僕にとってはちょっとした希望に繋がる機会となった。
イメージした通りに作曲する方法50 恋愛感情や日常の出来事をどんどん曲にしよう!  (CD付き)
梅垣 ルナ / リットーミュージック (2011-11-25)
古本でついで買いしてたのをすっかりわすれていたんだけどお盆休みに見つけ出して読んでみた。中高生のころに読んでたら影響を受けたかもしれない。仕事として曲を作ってるわけでもないので無理して作品数を増やす必要もないので、まあなにかのきっかけで思いついた時に新しい曲が降りてきたらそれでいいんじゃないのかなあって程度なので、まあ面白かったけどだからといって凄くためになったってこともなかったような。個人的な感想です。
チェ・ゲバラ伝 増補版
三好 徹 / 文藝春秋 (2014-04-10)
キューバに行くと決めた妻が僕のKindleで購入、だったらと読むことに。Kindleだと本の分量がどれくらいか分からないのだけど、思っていた以上にページをめくった気がする。これまでに読んだ本やいくつかみた伝記映画で知っていたエピソードも多かったけど、全く知らなかった、あるいは忘れていたことも多くて、なかなか刺激的な読書となった。ゲバラという男を評価するとき、その時代性を無視することはほとんどできないと思う。彼は正義のためには人殺しも厭わぬと考える戦士である一方、人の命を救うことを誓った医者でもあるからだ。今を生きる僕らが素直に評価すれば最初から矛盾した存在だということになる。そして僕は今のところ戦争や革命という究極の状況に身を置いたことがないのだから、彼の心底理解することはできないのだ。ことさらに神格化したり、否定したりすることもできない。僕に取れる態度は自分の理解というステップはとりあえず棚に上げて書かれた文字から彼の生き方死に方を想像し、自分だったらどうしただろうと問い続けることだけだ。一定の答えを得ることは死ぬまでないと思う。だがそうして問い続けるという行為自体が読書の醍醐味であると思う。
地球外生命は存在する!  宇宙と生命誕生の謎 (幻冬舎新書)
縣 秀彦 / 幻冬舎 (2017-05-30)
出張中の本屋さんで手にとって以来夢中になって読む。一緒に買った少子高齢化本とはまるっきり真逆の前向きで知的好奇心に満ちた書物だった。小学生高学年だった1975〜6年は石油ショックや公害問題で昭和の好景気に疑念が生じていた時代背景だった。それでもほんの数年前までアポロ計画が実行されていて諸問題はこれから科学技術が次々に解決していくものだと信じられていた。30年もすれば日本人だって火星に立っているはずだと子供向け科学雑誌には確信を持って書かれていた。ついでに言うと日本の人口はこれからどんどん増加してそのうち海の中にでも住まないといけなくなるとも言われていた。

でも実際に40年経った世界にいると人類はまだ地上400km程度の宇宙ステーションから一歩も出ていないし、宇宙人どころか地球外生命体の存在すら確認できていない。科学技術はたしかに前進しているけど持ち歩いているスマホや薄型テレビやちょっとだけ流線型のハイブリッドカーといった小物ばかりが進化しててたとえば核燃料サイクルなんてほぼ断念しつつその後始末も見通しがたっていない。ついでに言うと日本人が急に減りだして人口爆発どころか国家消滅すら危惧されている。

でもこの本に絵が描かれている科学者たちはみな地道だ。そんな素人たちの期待やら幻滅などと無関係に、じわじわと研究を進めてきた結果、ようやく生命誕生の秘密に目が届こうとしている。巨大な望遠鏡や緻密なソフトウエアの開発に加えて科学者同士の緻密な連携によって誰もが予想していなかった地球型外惑星の大量発見が続いている。

国家や軍や巨大企業による宇宙の旅は実現しなかったけど、科学者たちによる未来が拓かれようとしている。僕らが夢見た未来を諦めるにはまだ早かったようだ。
闇ウェブ (文春新書)
セキュリティ集団スプラウト / 文藝春秋 (2016-07-20)
久々に日替わりセールで買った。ディープウェブ、ダークウェブという普通のブラウザでは到達できない闇の世界が拡がってるだなんてまるで最新の宇宙論みたいじゃないか。僕が最初にインターネットに触れたのはたしか1994年くらいだと記憶しているけど、当時は「何でも繋がる表の世界」というイメージだった。なぜなら当時はパソコン通信や草の根BBSなんてのが一般的で(いや一般的ってことはないか)、検索サイトにキーワードを入れればなんでも見つけることができる、なんて発想は頭からなかったからだ。他人の家に直接電話してそのPCにモデム接続してコミュニケートしてただなんて今考えたらダークなウェブかもしれない。
ネットの世界は元々おどろおどろしい世界だったけど、インターネットの登場で表世界に出てきた。でもその世界が拡がれば拡がるほど人間のサガとしてまた闇の世界も復活してたのかってのが読後感です。
未来の年表 人口減少日本でこれから起きること (講談社現代新書)
河合 雅司 / 講談社 (2017-06-14)
新宿のブックファーストで見かけて購入、帰りの機内で読む。1963年生まれと書いてあるのでほぼ僕と同世代の著者(写真見る限りとてもそう思えないけど)の語る未来の日本はとても暗い世界のようだ。これまでに何冊か少子高齢化に関する本を読んだけどその中ではもっとも危機意識を前面に出したものだと感じた。ページをめくるたび次々と提示される「大変な事態」には興味をそそられるものも多かったが、だけどその一方で「えー、それってそんなに大変なことなん?」と冷めてしまうことも多かった。

読み終えてその違和感の根源について自分なりに理解することができた。著者は人口減が「国難」であると主張しているのだ。危機の単位が「国」なのだ。でも僕にとって国とか地域とか会社とかといった組織の優先順位は個人や家族や知り合いよりも後ろ側にある。お国のために個人が何かできることがないか、なんて発想はまったくもって、無い。個人の積み重ねの先に組織があるとしか考えてないタイプの人間なのだ。だから著者が次々と提示する「国難」についてピンとこなかったのだろう。

経営とは変化への対応だと言ったのはドラッカーだけど、国家の運営もそんな側面が大きいと思う。自分たちが過ごした黄金時代がこれからも続くことを願って子どもたちにその対応を強いるのは手法として間違っていると思う。その発想で会社を経営すると間違いなく失敗する。何をどうあがこうが変化は訪れる。その変化に対応できるマネージメントを考えることを第一優先すべきだ。その際に必要な態度は「目的と手段」を明確に分けることだと信じている。国家とは手段に過ぎないというのが僕の考えだ。国家を会社と言い直してもいい。目的は幸福だ。手段に過ぎない国家や会社といった組織のために個人の幸福追求に圧力を加えてはならない。せいぜいできることは「あなたの幸福の基準を少し変えてみてはどうか」という提案くらいだ。経済用語ではそれをマーケティングという。そんなことは民間経済人の戯言にすぎないと大学の先生には叱られるかもしれないけど。
武器輸出と日本企業 (角川新書)
望月 衣塑子 / KADOKAWA / 角川書店 (2016-07-09)
菅官房長官を激しく責め立てる望月記者に興味を持って。日本企業の武器輸出について数時間で頭の中を整理することができた。もちろん武器輸出はもってのほか、という論調で書かれているわけだけど、幼少のころからウルトラマンや永井豪、松本零士なんかの物語で「強い武器カッコイイ」「日本が開発した途轍もない武器すげえ」という価値観に憧れて生きてきた僕の世代だと、武器開発ってそんなにいけないことだったのか、という感慨を持ちながら読んでしまうのは仕方のないことかもしれない。

でもあの頃の物語における武器の役割はあくまでも怪獣や宇宙人といった人類共通の敵に対して有効な手段として描かれていたのだ。人類同士が脅しあったり言うことを聞かせるためにあらゆるリソースを武器につぎ込むなんてことは既に当時から「つまらぬこと」として描かれていたはずだ。僕らは大人になるにつれ怪獣や宇宙人を信じなくなってしまったけど、「力は正義なり」という物語の側面だけは素直に信じたまま成長してしまっている。

本書を読みながら漠然と頭に浮かべていたのは、はたして「自衛のための戦争」という定義はそもそも成立するのだろうか、という素朴な疑問だ。世界史を振り返るとほとんど全ての戦争が「自衛」を主張して始まったという史実に立てば、極論すると「戦争には自衛戦争しかない」ということになってしまう。そうなると日本国憲法を「ただし自衛のための軍備は許される」と限定的に解釈することの意味もなくなってしまう。

話は飛んでしまうけど、学校で虐められた子供がこのままではダメだ、と格闘技を学び、強烈な力をもってクラスを制圧する漫画なんてのも一時期流行した。あるいは魔太郎みたいに神秘的な力で制圧しようとする物語も流行した。誰だって「強くなりさえすればこんな目に遭わないのに」と悔し涙を流した経験はあると思う。だからそんな物語が多くの読者を得たのだろう。

でも実際に自分が強大な力を持つだけで全ての悩みが解決するかと言われるとそんなことはなくて、上には上がいるだろうし学校で一番になったら今度は他の学校やらホンモノの暴力団との力関係に悩むことになってしまう。仮に世界チャンピオンになったところでいつかは若い挑戦者に倒される運命を受け入れなければならない。

つまるところ「こんな目に遭わないための力」というのは絶対的ではない。中途半端に鍛錬を始めるよりも「あいつだけはこのクラスに必要だ」「あんな良い奴を虐めるヤツがいたら俺が黙っとかない」「何か知らんがこいつはみんなで守ろう」と周囲に思わせる何かを得た方がいいんじゃないか、なんて考えてしまう。

ずいぶん話が飛んでしまったが、自衛のために武器を開発し、世界中に売り込むビジネスで得るものは経済力だったり外交的なプレゼンスだったりするのだろうけど、その世界に一歩踏み込むだけで、失うものは案外大きいのだろうなあ、なんて読みながら思ったりしたのでした。
最後にまた話は変わるけど著者の望月記者は日本歯科医師会闇献金スキャンダルを追求したチームにいた人だったのですね。まったく意識してなかった。
青春ピカソ (新潮文庫)
岡本 太郎 / 新潮社 (2000-06-28)
関西出張から帰る途中、千里中央の田村書店に平積みされていて手に取った。これまで岡本太郎の本は何冊か読んできたが彼の筆致はいつも印象深く若くて元気でそれでいて一筋縄では飲み込むことのできないごつい感じを漂わせている。絵については語る資格を持たない僕だが3年前に出張先のバルセロナでピカソ博物館を訪れた経験も手伝って少しだけだが何かが伝わった気がした。
朝鮮・琉球航海記―1816年アマースト使節団とともに (岩波文庫 青 439-1)
ベイジル・ホール / 岩波書店 (1986-07-16)
久々に沖縄に出張に出かけ、ジュンク堂書店で探した19世紀初頭の紀行文。これがダントツに面白い。まるでSFなのである。恒星間宇宙船にのった地球人とどこかの宇宙人とのファーストコンタクト物として充分に読めてしまうのである。教科書で学んだ欧米列強はとにかく傲慢でアジアを植民地にしようと力で攻め立ててきたってイメージだけど、この本を読む限りはそんな感じはほとんどしない。確かに現代とはまるで違う他国に対する態度も見受けられるけど、それでもきちんと相手に対する敬意を持っているし、武力だけでなくトップ同士の交渉や民間同士の交流で目的を達成しようという気概を感じさせてくれたりもする。
誰の言葉か忘れたけど「歴史小説で歴史を学ぶバカ」というのはけっこう的を射ていると思う。作り込まれたエンターテインメントももちろん参考になるけど、この手の一次資料を手にするともう圧倒的なリアル感に病みつきになってしまいそうだしそれでいて読む前とその後ではニュースに対する態度が少し変わってくる(目線が複眼になる)気がするのでお勧めです。
徹底検証 日本の右傾化 (筑摩選書)
塚田 穂高 / 筑摩書房 (2017-03-14)
ツイッターのタイムラインでよく見かけて気になっていたのでAmazonで買い物した際についで買いしてみた。あちこちの出張に持って行って時間のあるときに読んだがなかなか興味深い章が多かった。特に浮き世の義理で動員されたケント・ギルバートの講演会を聞きながらその現場でWGIPに関する章を読んだりして、なんて実地感のある読書だろうと感心したり。
日本の国民全体が右傾化している段階にはないが、一部の動きはちょっとヤバイ段階に来ている、というのが素直な読後感だ。僕の感覚だけど、日本の右傾化もアメリカのトランプ現象と同じくバックラッシュ、反動なのだと思う。特に大きく関わっているのは民主党政権時代に起きた天災と原発事故への反動ではないか。青臭い正義を唱えたところで現実を変えることはできなかった、やはりパワーが必要なのだ、現実を見よ、武力だ、国家への忠誠だ、といったどこか原始的で男性的かつ偏差値の低そうな絵面(by 岡崎体育)が幅を利かせている気がする。どこか捻くれたマッチョイズムだ。

もう一つ、国民の多くが金持ち二世みたいな発想に陥っている結果ではないかとも思う。
なぜ僕らは国を守ろうとするのか。それは守るに値する価値があると信じているからだ。それは現状を失うことに対する恐怖とワンセットだ。今日本に暮らす日本人の多くは「この素晴らしい国の財産は自分たちが築き上げたものではなく、過去から引き継いだものだ」という少しだけ後ろめたい感覚を共有しているのではなかろうか。全員が二世経営者や二世政治家みたいなものだ。周囲に与えるほどの富を持てた時期は平和なボンボンとして楽しく暮らせていたのだが、いつしかその富を使い尽くし、隣国に圧倒されそうになったとき「富の正統性」みたいな概念にしがみつき、なんとしてでも自分たちこそがこの富を守る義務と責任と権利があるのだと信じ込んでいる。もちろん日本にも貧しい人たちは沢山いるが、それでも他国の貧困よりも日本の方がまだましだという感覚が外国人排除に手を貸してしまう。

そんなねじまがった気持ちが昨今の何でもクールジャパンや外国人排除の発想に繋がっているのではとずっと考えていた。
本書を読んであながち間違ってもないかなとまた気分を暗くした。

確実な解決案は今の財産なんて二束三文で売り渡したり使い尽くしたりして、さっさといちから自分たちで新しい富を創り出すことではないかと僕は信じている。
未来国家ブータン (集英社文庫)
高野秀行 / 集英社 (2016-06-28)
いつも日替わりセールで買ってしまう高野本。本作もいつものテイストで賢いんだか違うんだかわからないテンポで進んでいくのだけど、ほんと面白い。ある種の人たちにはまるで理想郷のように持ち上げられるブータンだけど、かなり綿密に作り込まれた人工的な国であること、幸福感の裏側に徹底した贅沢への忌避感がありそうなことなど、僕の世代(著者と同年だけど)にはかつての中華人民共和国の文化大革命、あるいはカンボジアのポルポトなんてのを思い出してしまったりするのだけど、ブータンは温厚な国民性と小さな規模、過酷な自然が寄与したのか絶妙なバランスで徹底した共産主義と過酷な資本主義グローバリゼーションの中間点を漂っている気がする。行ったことないけど。そういえば僕も初めてインドに行ったとき、あ、ここは遠い未来の日本かもしれないって思ったことがあったっけ。
ジャガイモの世界史 歴史を動かした「貧者のパン」 (中公新書)
伊藤章治 / 中央公論新社 (2008-01-25)
著者の出演したSessin22聴きながら注文、1ヶ月くらいかけて読んだけどたいへん面白い本だった。南米からヨーロッパ、フランス、アイルランド、アメリカ、そしてジャワから日本へ。ひとつの野菜が人類の歴史に大きく関わっていく様子がまるで壮大な映画を観ているようだった。人類はけっして自分たちだけで発展してきたのではなく、地球という環境の中で多くの世代を費やしてここにいるのだなあとあらためて実感することができた。食卓のじゃがいもにも今までと違った愛着を感じてしまいそうだ。
紙つなげ! 彼らが本の紙を造っている: 再生・日本製紙石巻工場 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)
佐々 涼子 / 早川書房 (2017-02-09)
妻が買っていた本を読んだ。のっけから圧倒される津波被災現場の描写にはただ黙ってページをめくるよりほかなかった。日本製紙(当時は十條製紙)八代工場敷地に隣接する小学校に通い、猛烈な匂いと空の大半を占有する工場の煙の下で育った身としては、まるでもう一つの可能性が実行された世界に投げ出された感もあった。

読みながら感じたのは「やはり東日本大震災は熊本地震と比較にならない大災害だった」ということだ。特に津波の被害はまったく次元の違う地獄絵図だった。ひとつ前の災害、みたいなくくりで容易に整理してはいけない災害の実相を感じた。ともに天災に遭った地域同士という感覚はあって当然だと思うけど、悲劇の量や数において同じ天災とはいえまるで別次元の体験だったことだろうとあらためて思い知らされた。

工場の復旧に関してやはりどうしても頭の片隅から抜けないのは同じ津波災害を契機とした東電福島原発についてだ。紙の本を愛しその供給に人生をかけた人たちが工場のために必死となった物語が美談となることは当然だとして、多くの国民を放射能の恐怖に陥れた東電で闘っていた人たちのこととなると、やはり純粋な美談にしてよいものかどうか悩ましい状況にあると思う。僕にも良くわからないけど、どうしてもそのことについて考えてしまう。

最後に著者がこの本の主軸とした「紙の本は大切」という主張には同感半分、そうでもないんじゃないか感が半分だ。いろんな理由があるけど月に10冊ほど読む本の半数以上がいまや電子書籍という生活をここ数年送っている。そりゃ紙の本が良いとはわかっている。でもそれは「特権階級の贅沢」だと思うのだ。70億の人類が全員毎月10冊の本を購入する世界を想像してみると分かりやすいと思う。世界中の森林が切り倒され、工業国の港町には大量の煙を24時間吐き出す煙突が立ち並び、町中に本を配送するトラックが溢れるそんな世界が実現可能だろうか。それは歓迎され、許される事態だろうか。世界中のネットサーバーがダウンし、世界を飛び交うテキストがすべて紙にプリントアウトされる社会ができたとして持続可能だろうか。
製紙や印刷に携わる方々の仕事を否定する気なんていっさい無いけど、日本人特有のオーバースペック競争、全体図を眺めることなく個別の競争に終始し、仕事の満足感をそこに見出してしまう悲哀みたいなものを感じてしまったのも事実だ。

最後に一冊の本でここまでいろんなことを考えさせてくれた筆者の筆力には本気で脱帽する。
わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)
カズオ・イシグロ / 早川書房 (2008-08-22)
ブックオフの送料かせぎに買うのはだいたいカズオ・イシグロってことに僕的にはなってて、何冊か積ん読状態の文庫本がつねに階段の下に置かれている状態になっている。でもふと手に取ってしまうとあっというまに入り込んでしまって旅先にも持参し読み耽るって流れに。これをSF作品と呼ぶのかどうかわからないけど、一人称で進行していくなんともいえな切なさを残す物語だった。映画やドラマにもなったと後で知ったけど、見るのが恐いような気もする。何度かみたディズニーのSF映画「アイランド」とは時期的に近く設定が被ってる気がするけど独立して書かれたのだろうか。
神を描いた男・田中一村 (中公文庫)
小林 照幸 / 中央公論新社 (1999-06)
奄美大島に旅行すると言って妻が買ってきた本を読んだ。田中一村は仕事で鹿児島に出張した2010年11月に鹿児島市立美術館でその作品に触れ、画集を買ってきて読んでいたので、とても興味深く読むことができた。
昭和の方丈記みたいだと思った。もし鴨長明と実際に会うことがあったらやっぱり変わった人だなあと感じると思うのだけど、田中一村も相当だと思う。でもそういう人からしか出てこない芸術ってのがあるんだなあと思う。妻は奄美大島に一人旅を敢行し、一村の記念館や住み処の後を辿ったらしい。機会があれば僕も出かけてみたいものだ。
これが知りたかった! 音楽制作の秘密100 作曲/編曲/作詞からコンペ必勝法まで現役プロが明かすQ&A形式ノウハウ集
島崎 貴光 / リットーミュージック (2015-02-25)
妻がバンドはじめるというのでいくつかバンド関係の古本を調達した中にあった一冊。制作現場の裏話的な話かなと思いきや、作曲やアレンジ、DTP録音術からプロになるためのコンペ応募から心構えにいたるまで幅広い話題の本でした。付属のCDもなかなか面白く。
でも古い人間である僕はふと考えてしまうわけです。J-POPやゲーム音楽といった産業としての構造に深いところまで組み込まれたエンターテインメントはこうして若者たちをすり減らしていくのか、と。情動でも衝動でもなく、ただコンペの企画書と要望書を読み解き、採用されそうな要因を盛り込みながらわずか5日間で曲を作り、詞を書き、録音までパソコンを前にすませて、採用の連絡を待ち続ける若者たちが大勢いるという現実に、おじさんは立ちくらみを憶えるのです。60年代、70年代と若者たちが体制なんか知るもんか、と造りはじめた8ビート、16ビートの行く末がこんなことになっていたなんて。もちろん日本のミュージシャンすべてがそうだってことはないんだろうけど、それでもミュージシャンなら仲間のこうした状況をどう考え、どう行動するんだろう。FM番組を聴くとこんちわー、新しい曲はキャッチーなフレーズを意識して書いてみましたー、と声を合わせてはしゃぐJ-POPグループばかりだ。いったいなんなんだよ、どうしちゃったんだよ、ニッポンのロックは!と古い人間は忘れかけていた衝動に駆られ、そして沈むのであります。
ナイロビの蜂〈上〉 (集英社文庫)
ジョン ル・カレ / 集英社 (2003-12-01)
手嶋龍一氏の本に面白いと書いてあったので古本屋で入手したのが1月で読み終わったのが5月というゆっくりとした読書になったけどまだ下巻が残っているので楽しみは継続中。これといった派手な展開もないままアフリカにおけるイギリスの外交というか諜報の様子が書かれていくわけだけど、これ下巻に入ったらきっとハードボイルドドラマが爆発するんですよね・・・。
この世はウソでできている (新潮文庫)
池田 清彦 / 新潮社 (2016-01-28)
千里中央の田村書店にて平積みになってたので手に取り、しばらく読まなかったけど連休中暇だったので読み始めた。最初の方はなかなか面白い切り口だったけど、途中から医療批判がはじまり近藤誠医師を絶賛しはじめたりするとなんだこりゃってことなってしまい、斜め読みしはじめるんだけどもう最後までそんな調子で思わず武田邦彦あたりのトンデモ本を読まされてるのかと思った。
著者の本は過去に読んだことがあるが、生物学については面白い内容だったと記憶している。著名になってしまった専門家は常に専門外のことに上から目線で「俺に言わせると」などと言いたくなる誘惑があるんだろうけど、こういう適当なことをさも真実であるかのように語ってしまうとせっかくの専門分野での実績を自ら台無しにしてしまうという分かりやすい症例だなと思いました。実に下らない本を久々に読むことができて幸福でした。
熊本地震で自宅に住めなくなってやったことの記録
山野 貴史 /
著者とはTwitter知りあいで。地震の時にツイッター経由で彼のブログも何度か読んだことがあるけどKindleで本を出したときいてさっそく読んでみた。僕自身は東区に住みながらも幸運が重なってほとんど被害を受けていないのだけど、すぐ近所のマンション住まいで同じように住めなくなった友人や引越を余儀なくされた取引先の話もたくさん聞いていたので、いろいろ思い出しながら読んだ。でも当時のことをかなり忘れてるもんだなあ、というのも実感してしまった。東北の震災なんて今でもリアルに憶えてたりするんだけど、どういうわけか身近な災害に関してはどんどん忘れてしまっているような気がするのだ。だからこうした当時の記録を読み返すのも時には必要かなと思う。ぼくもFBやツイッター、ブログなどあちこちに当時のことを書き散らしているのでいつか読み直さなきゃいけないと思う。いつかそんな気分になれたら。
海の向こうから見た倭国 (講談社現代新書)
高田貫太 / 講談社 (2017-02-20)
メキシコ旅先で読む本がなくなりなんとなく注文。いろんな遺跡を見て2〜3世紀頃の世界に興味を持ったからかもしれない。旅先や飛行機の中、帰国してからも合間に読む感じで細切れに読んだのだけど最後まで興味が途切れず面白く読めた。
現代人の僕らは過去の歴史もつい今の国境線を基準に考えがちだが、国民国家というフレームが出来上がったのはここ数百年のことであって、つまり百年後にはそんな概念も過去のものになっているかもしれないわけで、もっと柔軟に捉える必要があるのだと痛感した。
国境線を消したGoogleEarthを眺めながら過去の交流に思いを馳せるのが良いかも知れない。
本筋とは全く関係ないのだけど、本文中常に「築かれた」が「きずかれた」とひらがな表記だったのは毎回違和感を感じてしまってずっと引っかかってしまった。なにかのこだわりがあるのかもしれないけど。
閉じこめられた僕 - 難病ALSが教えてくれた生きる勇気
藤元 健二 / 中央公論新社 (2017-03-21)
藤元氏のことを始めて知ったのは荻上チキセッション22に作家の山田清機氏が出演した時のことだ。同級生にALSの患者がいると取り乱した山田氏の声に僕も心を揺さぶられてしまった。
その後同番組を通じて何度か藤元氏の活躍や病気に通じて見聞きはしていた。彼が出版直後にガンで亡くなったことも同番組で聴き、その場でこの本を注文した。届いてすぐに読み始めて意外だったのは闘病記にありがちな聖人君子的な患者像がまったく見当たらなかったことだった。僕とほぼ同い年のオジサンはどんな状況に追い込まれようと徹底して俗人ぶりを手放そうとしない。怖れ、戸惑い、ジタバタし、ときには小さな悪意まで垣間見せながらも僕と同じような日常生活を意地になって継続しようとする。だからこそ読んでる僕はこれがまったく違う世界の話だとは思えなくなる。次に閉じ込められるのは自分かもしれない、という強烈なリアリティに追いかけられる。でもだからといってけっして恐怖映画のような寒気は感じないのだ。本当に酷いことになっても、きっとどうにか生きていける、どこにでも小さな幸せは見つけられるんじゃないかって勇気が恐怖のあとをまた追いかけてくるのだ。
筋力を徐々に失い、最後は目を動かすことで文字を吐き出し、その生きた証を放射し続けた彼のテキストはいま本というかたちで世に出され、活字という視覚情報を通じて読者の脳にインストールされる。だからもしかすると彼の中の何かがいま僕の脳の中に滑り込んだんじゃないかと思う。読書という行為にそんな感覚を感じたのは初めてのことだ。
スペイン語基本単語入門830(検定対応)
スペイン語研究会 / スペイン語研究会 (2015-03-30)
2015年にバルセロナに出かけた際に購入し、その2年後にメキシコ旅行した際にも大活躍した。iPhoneのKindleアプリに偲ばせておいて「これいくらですか」「安くしてください」「片道でグアナファトまで」「お勧めは何ですか?」「お勘定お願いします」「美味しかった」みたいなカタコトスペイン語のバイブルとなりました。また空いてる時間で数字や挨拶などを憶えたりと大活躍。
メキシコ (絵を見て話せるタビトモ会話)
玖保 キリコ , 玉城 雪子 / ジェイティビィパブリッシング (2012-03-16)
千里中央の田村書店で購入。旅先のメキシコでは常にお尻のポケットに突っ込んで歩いた。スペイン語はさっぱり分からないので屋台で料理を選んだり、英語の通じないホテルのフロントでちょっとした会話をしたりする際にとても役だった。でもなかなか憶えないなあ。
B19 地球の歩き方 メキシコ 2017~2018
地球の歩き方編集室 / ダイヤモンド・ビッグ社 (2016-09-03)
1987年はじめての海外旅行先としてインドを選んで以来、ずっと「地球の歩き方」を手にとってきた。今回メキシコを旅することを決めて最初のアクションはもちろんこの本を買うことだった。以前に比べると貧乏旅行のバイブルといった趣は消えてしまったけど身体に染みついてる本の構成はちょっとした時間で旅先の情報を得たいときに頼りになるのだ。
今回は紙の本に加えてKindle版も購入。いつものように必要なページだけ切り取って持ち歩くのだけど、それでも他のページを参考にしたくなったり、旅先でページをなくしてしまうこともあり(実際2回なくした)。スマホにすべてのページが治められている安心感は格別だった。移動中のちょっとした合間にページをめくる作業がすっかり癖になった。いかにネットの情報が充実していってもいつでもネットに接続できるわけでもないし、短時間で必要な情報を得たいときには事前にしっかりまとめられた電子書籍は有用だなあと感じたものです。
女たちの遠い夏 (ちくま文庫)
カズオ イシグロ / 筑摩書房 (1994-06)
メキシコ旅行中に持ち歩き、旅の終わりと同時に読み終わった。主人公はイギリスに住む日本人女性、戦後の長崎時代を思い出しながら自らの人生を振り返る。行きの機内で「この世界の片隅に」を観たことも(3度目)手伝って、海外から日本を考えるというなかなか貴重な体験となった。
Guanajuato City Travel Guide: Your Guide To The Jewel Of Central México (English Edition)
Nublason / Nublason (2015-11-29)
グアナファトの宿で時差ボケのため眠れなくなり、英語の本でも読んだら眠くなるかなと思ってダウンロード。案外読みやすいし、WordWise機能の秀逸さも手伝い眠くなる前に読み終わってしまった。日本語のガイドブックでは書かれてない興味深い歴史が参考になった。
【カラー版】巨流アマゾンを遡れ (集英社文庫)
高野秀行 / 集英社 (2003-03-25)
日替わりセールで。メキシコに向かう機内で読んだ。もちろん時代も違うし南米と中米という距離的文化的な差も大きいのだけど、安全で何ごとも阿吽の呼吸が通じる国内を出てしばらく未知の土地を歩きましょうかというタイミングで気持ちの良いモードの切り替えとなった。こういう冒険談に較べると僕の旅行なんてなんちゃってツアーだなあと妙に安心したりがっかりしたしできるし、何と言っても「地球や人類は思った以上に大丈夫」って思えてくるから気合いが入るってもんです。相変わらず面白く笑えるのであっという間に読んでしまった。文句なしの名著だと思う。
もりぞお世界一周紀行04.メキシコお気楽編
森山 たつを / 森出版 (2013-03-01)
メキシコ行く前にとKindleストアで探してざっと読む。ブログが元なのかな。世界観というか経済に対する考え方などは僕と近い気がした。
ポピュリズムとは何か - 民主主義の敵か、改革の希望か (中公新書)
水島 治郎 / 中央公論新社 (2016-12-19)
ポピュリズム、ポピュリストという言葉が一概に批判されるべきものでないと教わったのは10年ほど前に米国から来ている英会話講師からだった。政治とはそもそも民衆の声を聞くべきものだし、それを全面に押し出して票を得ている政治家も多いよとさらりと言われ、当時大衆迎合主義は批判されるべきものと考えていた僕にはとても新鮮だったことを憶えている。この本もポピュリズムが一概に非難されるべきではなく、それは民主主義にはつきものであることとして、うまくコントロールされるべきものという考えで書かれている。問題はここ十年あまりの急激なIT化、SNSの普及がいわゆる大衆レベルに浸透したという曲面においてそのコントロールが困難になりつつあるということだと感じた。けっして専門でもない分野に感情と情緒だけで過激に参戦してくる層がいよいよ主流となりつつある時代に、彼らとどう付き合っていくべきなのか。世論、輿論、一般意思といったキーワードも脳裏をかすめる。大衆などに政治や科学がわかるものか、と決めつければそこに今度は反知性主義が立ち上がる。アメリカのトランプ大統領誕生をはじめ、欧州における右翼勢力、東アジア(日本も含む)のナショナリズムなど、一概にばさっと片付けられない、でも放置していると世界を分断と戦争に容易に導いてしまう、そんなポピュリズムについて深く考えさせられる機会となった。
メキシコ 世界遺産と音楽舞踊をめぐる旅
さかぐち とおる / 柘植書房新社 (2012-10-10)
メキシコ旅行前にいろいろ現地情報を仕入れようとブックオフで。どちらかといえば旅日記、ブログのようなスタイルで語られる現地の話だけど、スペイン語が堪能らしい著者が何度も訪れている場所での記述はやはり重厚というかネットで見かける旅日記とはやはり違う感じがした。今回の僕の旅行はわずか1週間で3都市回るだけだし、スペイン語もさっぱり話せないのでもっと浅いものになるのかもしれない。それでも一生忘れられない旅になるのだろうなあと思わせる本でした。さっそくYouTubeとAppleMusicでマリアッチを聴きはじめるとわくわくしてくるし。
水木しげるの大冒険 幸福になるメキシコ―妖怪楽園案内
大泉 実成 / 祥伝社 (1999-06)
メキシコに行く前にいろんな資料を読み込んでおこうとブックオフで検索して入手した。結果としては大正解、これからもながく心に残る紀行文となりそうだ。1999年6月といまから18年も昔に出た本だからか文章に古さを感じたりするところもまた味があって良い。でもたぶん現地はいまでもそんなに変わってないんじゃないのかなあとも思えてくる。そうだ確かめに行かなきゃ、ってことでまだほとんど決めていなかった現地での旅程を組み始め、オアハカに2泊することにした。今から現地で色彩豊かなお面を見るのが楽しみだ。
【カラー版】怪魚ウモッカ格闘記 インドへの道 (集英社文庫)
高野秀行 / 集英社 (2007-09-25)
日替わりセールでまたまた高野本ゲット。完全にAmazonに狙われている。旅への期待に胸を膨らませつつトラブルで挫折したままズブズブ終わっていくという、なかなか本にはなりにくいと思われるネタをなかば強引に仕上げた物語でありました。インド入国話や腰痛話など彼の読者だとすっかりお馴染みのネタが出てきてなんだかちょっと面白かった。
沈黙 (新潮文庫)
遠藤 周作 / 新潮社 (1981-10-19)
中学や高校の課題図書だったかもしれない。でも当時はまったくこの手の本に興味を持てない学生だったし、読書感想文を書くことも忌み嫌っていたので完全に無視してしまっていた。僕が今みたいな量で読書し始めたのってほんとここ数年なのです。千里中央駅の書店で平積みになってたのでついで買い。その週末に没頭してしまって一日で読んでしまった。もちろんスコセッシの映画で話題になってたからだけど、それとは別にこんな面白い物語があったんだ、と初めて読む遠藤周作にハマる。そういえばこの世界の片隅にで鈴さんの旦那さんは周作だ。なんてことはどうでも良いんだけど、まったく宗教心のない僕にとってキリスト教と江戸時代の日本の遭遇はまるでその前に読んでいたスペインとマヤ文明との遭遇を彷彿とさせる面白さだった。いろんな解釈が許される物語だと思うけど、僕には「転ぶ」ことこそが人類の発展を支えてきたんじゃないかという、弱者こそが環境変化に適応し生き残るのだ、なんてメッセージを受け取った気がした。キチジロウはもちろんユダだろうけど、イエス・キリストだった可能性にすら思い至る。
物語 メキシコの歴史 太陽の国の英傑たち (中公新書)
大垣貴志郎 / 中央公論新社 (2008-02-25)
勢いでメキシコを旅しようと決めたので、だったら歴史くらいは事前にさらっておこうかとKindleで。独自に発展した文明と遭遇するスペイン、アメリカ、フランスといった西洋文明、スペイン人の子孫と先住民そしてその混血が覇を争う革命の時代となかなか読み応えがあった。トランプ大統領が登場してアメリカとの国境問題が浮上しているが、そもそも現在の国境は大部分アメリカが戦争などで強引に設定したものだってこともわかった。もしかしたら死ぬまで触れることのなかったある国の歴史や文化に急速に近づけることも旅の醍醐味だと思う。
マヤ文明-密林に栄えた石器文化 (岩波新書)
青山 和夫 / 岩波書店 (2012-04-20)
メキシコ革命以前の歴史についても詳しく知っておこうとこちらもダウンロード。マヤ文明が機械に頼らない「手作りの文明」であったことや、マヤと一括りにできる概念はなく、多様な国家や都市が長い年月にわたって興きたり棄てられたりしたことなどこれまで知らなかったことがたくさんあった。なかでもマヤ文明は突然失われたわけではなく、今でもしっかりと継続しているのだ、という文章はまるで恐竜と鳥類の関係みたいに目から鱗だった。また本書は著者の個人的な生き方の記録ともなっており、普通だとなかなか出会うことのない研究者の一面を覗くことができて楽しかった。
「南京事件」を調査せよ (文春e-book)
清水潔 / 文藝春秋 (2016-08-25)
アパホテルには何度も泊まったことがあるけど、デスクの中にセットされている本がどうも苦手で最近はあまり使うことがなくなった。先日ネットでその本が話題になり中国でも話題になっていると知り、これを機会に実際のところどうなんだろうとKindleで読んでみたのがこの本だった。
これまで「あった」「なかった」の双方の本やページを読んだこともありそれなりの予備知識も持っていたつもりだったけど、調査報道で名を上げた著者にしてもけっして専門家ではなく取材記者としての好奇心で現地まで飛ぶ態度には納得させられるものがあった。

一次資料で示されたことは日本軍が大量の捕虜を確保したがその処遇に苦労していたこと、捕虜の中には相当数の一般市民が含まれていたこと、数日にわたってそれらの捕虜を一斉に銃殺したこと、などである。日本軍兵士による複数の日記がすべて嘘や捏造であるとは到底考えられず、数万人規模での銃殺が発生し揚子江に流されたことはおそらく事実だと思う。数年前にたまたま読んだフランス人新聞記者の日記(ロベール・ギランのアジア特電)にも当時南京で大きな事件があったことが書かれていたことも思いだした。
それが30万人だったのか3万人だったことに議論が分かれていることは知っているし、外務省のwebページにもそう書いてあるわけだけど、だからといって「南京事件はそもそも無かった捏造だ」という主張は飛躍しすぎているのではないかと思う。

もしかしたら不届きな表現かもしれないが、僕の心に浮かんだイメージを正直に表現することが許されるのなら「南京事件は日本軍による捕虜殺処分だった」。まるで不要となったペットを無慈悲に、機械的に、まるで工場でモノをつくるように大量に「最終処理」してしまったこと。上官も現場もそれを「仕事だから」と日常の一部として流してしまったこと。だからその是非は今でも終わることのなく問われてるづけているのだ、と感じた。

このあとこの作品の元になった番組「南京事件~兵士たちの遺言~」もみたけど、やっぱり丸ごと無かったことにするのは無理筋だと感じた。
プーチンはアジアをめざす 激変する国際政治 (NHK出版新書)
下斗米 伸夫 / NHK出版 (2014-12-11)
2015年のお正月以来、2年ぶりに再読してみた(Kindleって本当に再読のハードルが低い)。この2年間にロシア関連で起きたことと言えばトルコとの緊張と蜜月、プーチン大統領選におけるハッキング疑惑、来日と北方領土問題先送り、などだ。他にも底打ち下と言われる原油価格、相変わらず見通しの立たない北朝鮮問題なども。2年前には予想されなかった出来事もあればそうでないこともあったのだろうけど、こうして少し前に書かれた本を読むのってタイムマシンにでも乗った気分になれてちょっと面白い。こういう体験を深めることができたらきっと現在の問題についても未来からの視点で臨むことができるようになれるのかもしれない。
高い城の男
フィリップ・K・ディック / 早川書房 (1984-07-31)
AmazonPrimeで一気にみた高い城の男シーズン1の勢いで2年ほど前に読んだ原作を再読した。自分でもおかしくなるほど見事に内容を忘れててどういうことか、と悩ましくなるのだけどでもそのぶん新しい気分で楽しめた。プライム版のドラマは原作の設定を一部使っているだけで見事に違う作品に仕立てられていることもわかったけど、それはそれで面白いのでシーズン2が待ち遠しい。この世界ではきっと合衆国憲法が大日本帝国憲法をベースとしたものに書き換えられているのだろう。同時に読んでいた本に「戦争の目的は相手国の憲法に手を突っ込んで書き換えること」というルソーの言葉を思い出した。
寒い国から帰ってきたスパイ (1978年) (ハヤカワ文庫―NV)
ジョン・ル・カレ / 早川書房 (1978-05)
手嶋龍一氏の著作に紹介されてたのでブックオフで。手嶋龍一氏の本で紹介されていたので古本屋で入手。ほぼ1日で読んだ。連作の一部らしいけどそんなことはまったく気にせず読めたし、60年代の西ドイツやイギリス、ソ連の状況を想像しながら当時の気分を味わうには最適の作品だったと思う。下の高い城の男とも微妙にリンクしてて。面白かったのでカレの作品をまた古本屋で大量に購入してしまった。
今を生き抜くための70年代オカルト (光文社新書)
前田 亮一 / 光文社 (2016-01-19)
ブックオフオンラインの送料かせぎに買ったのだけど案外面白かった。著者は僕とほぼ同い年だから恐怖新聞からユリ・ゲラー、矢追純一にノストラダムスとほとんど似たような番組に接していて、当時の気分をほどよく思い出すことができたからだ。冷戦の真っ只中だった70年代は僕らが生きているうちに核戦争か公害問題で人類は滅亡するものだと半ば本気で考えていたし、それも仕方ないことかもなあって諦めてたところもあった。だから僕らより少し年上の人間たちが容易にオウム事件を起こしたりしたのかもしれない。いまISISの若者たちがネット情報を元に陰謀の悲観に暮れてることを考えると、オカルトだからといって笑って済まして良いのかって気にもなるけど、でも若いうちに無邪気なオカルトにしっかり触れて免疫作っておかないと、いい年こいてネットの陰謀論を拡散する気マジメ大人になってしまいそうでそれもまた怖い。
戦争まで 歴史を決めた交渉と日本の失敗
加藤 陽子 / 朝日出版社 (2016-08-09)
加藤さんの本は前著「それでも、日本人は「戦争」を選んだ」で読んだけどその続編的なものが出ていると知り取り寄せてみた。一気に読んだわけでなく1ヶ月くらいかけてじわじわ読んでいったのだけど、お正月にみた映画「トラ・トラ・トラ!」や昨年読んだシベリア出兵や満洲に関するさまざまな書籍、1年前に読んだ地元出身の石光真清の日記などに書かれた戦前の事象の謎解き本を読んでるいる気分だった。いわゆる歴史を見直そうと頑張っている諸氏も、逆に戦前の日本こそが悪であってその復活を押しとどめることこそが正義と主張している諸氏も、この本で質問している中学生、高校生諸君を見習ってもういちどいちから資料に当たってみると良いと思う。加藤さんの話を聞く限りにおいて戦前の日本もアメリカもそんなに馬鹿ではなかったし戦争を回避しようと必死で交渉していた人もいた。アメリカという人間や日本という人間がいるわけではなく、ただ単に多様な人間の集団の総称でしかない。何かひとつの知識を元に単純に「アメリカは」「日本は」「中国は」なんて語る話はたしかに分かりやすくて面白いけど、歴史を後世の利害関係で歪めてしまう要因にしかならないと思う。
水域 (講談社文庫)
椎名 誠 / 講談社 (1994-03)
椎名誠のSF三部作をこれで全部読んだことになるんだけど、どういうわけか時系列と逆順(島田倉庫→アド・バード→水域)で読んでしまった。1989年に書かれたSFとしては第1作の「水域」はとても静かな作品でどことなく宮﨑アニメ(未来少年コナンとか)みたいな景色が浮かんできた。最近の映画で言えば「ライフ・オブ・パイ」がちょっと近い世界観かも。僕は大好きだなあこの手の作品。

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